忘れられない君との夏。


それが嬉しくて、涙が止まらなくなる。


「私、笑顔でいってらっしゃいって言えない」


「…うん」


「東京は大切な人を奪う。だから今も嫌い。きっと、これからもずっと嫌い。洸のそばにいたい。行って欲しくない。」


「…うん」


「洸が変わるのがこわい。帰ってこないかもしれないのがこわい。…洸に、忘れられるのがのこわい」


胸の中にある複雑な気持ちを、全部吐き出す。


「でも、私は…」


「葵!」


体が解放されて、頬を大きな手に包まれる。


溢れ続ける涙が、洸の手を伝う。


「俺は、葵が東京行くなっていうなら行かない。東京は、俺の夢だ。でも、それと同じくらい、ずっと葵が好きなんだ」


「こ…う」


「昔から、ずっと、葵は俺の憧れで、俺の大好きな子だ」


胸が、キューッと締め付けられる。


洸の手を上から包み込む。


「葵は、どうしてほしい?」


洸は、私のそばにいてくれる。


夢と同じくらい、私が大切だと言ってくれた。


だから、私は


「洸に、東京にいってほしい」

< 83 / 88 >

この作品をシェア

pagetop