目を閉じたら、別れてください。
思わずロッカーに隠れようとした私は、次の瞬間ドアが壊れるかと思うぐらい大きな音を立てて蹴られたので固まった。
「いるじゃねえか」
「進歩さ……ん?」
眼鏡をしていない。髪を整えていない。
無口で寡黙そうでもない。どちらかというと攻撃力が高そうな、別人だ。
髪を掻き上げながら、私を睨んでくるこの人は、本当に進歩さんだろうか。
一時でも婚約者だったはずの彼が、全く知らない他人みたいに見えた。
「その顔は俺に会いたくなかったって顔だ」
「そんなこともなくはない、けど」
「それとも嘘がばれるのが怖かったか、だ」
歩いてくる彼は、ロッカーロームの埃臭いソファに座った。
露骨に、舞う埃に嫌悪を抱いているのが分かる。
こんなひとだったっけ。
いっつも物静かで、知的なイメージだったのに。と言いますか、嘘って。
私の嘘って、もしかして、あの事?
「別れようと切り出した時のあの言葉、……嘘だったらしいな」
「誰に聞いたの?」
「誰って、お前のじいさんだ。海水浴の写真も見せてくれた」
あちゃ。おじいちゃんたちと旅行に行ったときの写真、ばれてしまったのか。
「ということは、別れたのも無効だ」