目を閉じたら、別れてください。
減らず口に唇を尖らせるが、彼は眼鏡を置きながら微笑む。
「楽しいよ」
素直な彼は、それはそれでちょっと不気味だった。
「俺をこんなとこに誘ってくれるのは、桃花ぐらいだからな」
「……お洒落でムードある場所には誘われてるって落ちでしょ」
うへえ。今までより、口が悪くなったくせに甘い。
甘い雰囲気になってしまうんですけど。
こっちが本性だから、気兼ねなく本音が言えるってことなのかな。
私、お付き合いしてるとき、進歩さんとどんな話をしていたのか思い出せなくなる。
「お前はどうなの? 俺と別れてから、こんな店に一緒に行く相手見つけなかったの」
「……さあ。過去の詮索は無粋ですわ。それとも私がモテるとでも思っているのかしら!」
芝居かかった口調で返すが、彼は笑う。
「思ってるから聞いてるけど」
「……モテるわけないし。私も叔父さんも婚期逃してきたのに」