目を閉じたら、別れてください。
「面白い?」
くくくっと押し殺した声と共に、テーブルが揺れている。
これは怒っていないけど笑っている。
横から覗き込むと、口はふるふると震えているのが見えた。

「今まで、俺に何か言われて真っ赤になって照れるとか喜ぶとか、演技して笑うとか沢山見てきたけど、桃花の反応はいつも新鮮だわ」
「……美人の顔は三日で飽きるけど、私の反応は一生飽きないとかいうやつ?」

「桃花も可愛い顔してるし。まあ一生退屈しなさそう」
顔を上げて、乱れた髪を整えだす。
その仕草だけでも惚れ惚れするぐらいイケメンなのに、この人は本当に私なんかを選ぶのが残念だ。
「まあそんな顔されるとは思ってなかったから一旦忘れて。正式にプロポーズするから」
「え、ちょ」
「十字架のチーズセットとワイン、こちらA型、そちらがBです」

彼は『違いが分からねえ』と爆笑しながらワイングラスと持つと、中を覗いて揺らす。
その姿は絵になるのに、しゃべると残念だ。
けれど、正式にプロポーズということはつまり私たちは結婚してしまうわけで。

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