目を閉じたら、別れてください。

「ねえ、ニューヨークは楽しかった? 戻ったら昇進だったろうに辞めて良かったの?」
「楽しいかよ。定時だし人は良いやつらだけど、強盗対策に拳銃の打つ練習するんだぞ」
「嘘!」
「うそ」

ケラケラと笑う進歩さんに、腹が立って口にチーズを押し込む。

「もっと可愛くあーんってしてよ」
「しない。嘘つき野郎」
「どっちが嘘つきかよ」

楽しそう。
こんな風に笑うこの人を、見る日がくるとは思わなかった。
「……」
まるで少女漫画のヒロインのように不覚にもときめいてしまったのであった。

ゾンビBARは、メニューも店内も凝っていてそこそこ楽しかったんだけど、いちいち言うことが子供っぽい進歩さんの言葉にドキドキして楽しめなかった。
いや、楽しいと思ってもいいのかな。

「え、お前、明日休みじゃねえの」
「私は本社じゃなくて、支店の事務ですので」
「そっか。同じ職場より面倒じゃねえとは思ったけど休みが合わないじゃん」

支払いがいつの間にか終わっていたレジを通り、外に出る。
会話に参加しつつも、なるべく上の看板は見ないように彼の腕時計に目を向けた。

「じゃあ辞める?」
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