目を閉じたら、別れてください。
「うえ?」
「仕事、辞めてもいいよ。辞めたくないならいいけど」
「そんなあっさりと」
「婚約してるときは、三食昼寝付きでもいいかなーっとか言ってたろ。俺、今、ニューヨークから帰ってきたばっかでマンション探してるし、なんなら買おうぜ」
急展開に驚くも、進歩さんはそこまでちゃんと考えていたようで淡々と話してくる。
甘い言葉と現実を決める言葉が交互に出てきて、やはり私は少女漫画のヒロインにはなれないのだと知る。
看板が見れないから下を向き、彼の腕時計から目が動けない。
仕事にそこまで情熱的じゃないくせに、養われる感に抵抗がある可愛くないヤツ。
「まあ、まずはプロポーズだけどな」
見ていた時計が動くと、私の手を優しく包み込んだ。
そしてすぐに慣れた様子で恋人つなぎに代わる。
見上げたら、少し照れた顔で挑発的に笑っていた。
「送ってく。次の休み教えろよ。で、泊まりに来い」
「……進歩さん、今、家どこ?」
「持ちマンションに荷物入れてるんだけど、段ボール天国。手伝ってよ」
「考えとく」
私の酷い嘘を、こんな風に寛大に許してくれる人なんてそうそういない。
叔父さんやカフェで話していた女たちや元カノのことは、耳に雑音として入ってくるけど、今は彼の手から伝わってくる体温だけで幸せになるから現金だ。
「私、お城に住んでみたいんだけど、どう?」
「ここら辺に城なんか建てたら、ラブ歩に間違われて絶対に夜中入ってくるな」
「……」
前言撤回。
もう少しロマンチックな相手と結婚したいかもしれない。