目を閉じたら、別れてください。
「夢を見すぎてる私が悪いと。手厳しいな」
叔父さんは灰を落としながら苦笑している。
どうして喫煙所が、このタイミングで少しだけドアが開いていたのだろうか。
聞きたくもない言葉に驚くも、体が動かない。
柱に隠れてやり過ごすことしかできない。
「少女漫画やドラマのなかの恋愛なんて俺は期待してねえっす。だから今回のお見合いはほんとよかった」
「良かったという意味は?」
「俺と斎藤さんが仲良くなるのは会社にメリットしかねえ。親も結婚相手にぐたぐた言わねえで大切にしてくれる。俺も会社を継ぎやすい。これ以上のことはなかった」
「……んんん。結婚に利益ねえ。胸糞悪い」
叔父さんの淡々とした静かな言葉に、彼も感情がうかがえない。
仕事の引継ぎ連絡とか、終わった書類の確認をしているような、そんな延長線上に思えてくる。
「ちゃんとうちの姪っ子に愛情はあるのかな」
「過保護っすね」
「返答次第では、君と私の中は破綻するし、会社も派閥が分かれるね。脅しじゃないけど、本音以外許されないよ」
叔父さんの言葉は嘘じゃなかった。
私も壁についていた両手にぐっと力がこもった。
「あ、せんぱーい」
改札口の方へ眼をやると、泰城ちゃんが手をふっている。
私は人ごみに紛れてその場を離れた。
心臓は、痛かった。ナイフで急所をちくちく刺されたような、じっくり殺されていく感じ。