目を閉じたら、別れてください。
二個目のピザに手を伸ばしながら、私は進歩さんを見た。
進歩さんもピザソースのついた指を拭きながら私を見る。
「プロポーズのやり直しってことかな」
「そう。なのに先にエステで釣ろうとするなんて、バカじゃない」
彼が手を伸ばしたピザに、タバスコを山のようにかける。
そして、窓の景色の方へ眼をやった。
「でもおじいちゃんがいるから、こんなホテルとかじゃなくて、庭がきれいなお屋敷借りて結婚式とかいいなあ」
「なるほど」
彼が妙に納得したように頷く。
彼の中ではもう結婚のビジョンはとっくに出来上がってるんだろうね。
その先の、会社の派閥についてのことまできっと。
「やばい。タバスコ、鼻に来た」
「先輩、かけすぎですよ」
「やばいやばい、メイク崩れるう」
「そんなメイクしてねえだろ」
使っていないナプキンを渡され、目じりに浮かぶ涙を抑える。
だが、私のピザにはタバスコは全くかかっていなかったことをきっと誰も知らない。