目を閉じたら、別れてください。
「そうね。じゃあプロポーズと同時進行で式場決めて、進めていいよ」
「おっとこらしいな。お前の休みに合わせるから、おじいさんたちの足の負担にならないような式場探すか」
「……うん」
「お、タクシー来たじゃん」
私も嘘をつく。
急降下していった私の思いを、そのまま地面にぶつけてめちゃくちゃに壊して、逃げ出す。
うそつきはお互いさまだ。
「結婚ってちょっと面倒だよね。お金もかかるし」
「ああ、まあ、でも人生で一度のビッグイベントだろ」
「そうね。だから、どこかで妥協するしかないんだろうね」
「おい、桃花」
止まったタクシーに乗り込みながら、微笑む。
「おやすみ。私の次の休みは水曜だよ」
打算で手放したくないと、笑った彼の顔が瞼の裏に張り付いて離れない。
きっと忘れられない。
「ああ。おやすみ。じゃあ水曜、午前中に都合つけるから」
「うん」
小さな嘘から空回りだした、小さな歯車。
かみ合わないのはきっと私だけのせいじゃない。
ごちゃごちゃと周りの音がうるさすぎて、壊れた歯車が聞こえなかっただけなんだから。