目を閉じたら、別れてください。


「……」

優しいね。私の気持ちを一番に考えてくれている。

もう二度と破棄させるわけにはいかないから、ね。
私が逃げ出さないように、優しい。
そう考えてしまう自分が一番バカなんだろうね。

逃げないよ。結婚するよ。

「おーい、聞いてるか?」
「うん。ハワイにした場合の旅行費を計算してた」
「俺の嫁さんは財布のひもがしっかりしてるなあ」
「でもおじいちゃんがいるから海外はいやだな。それにここまで進めておいて、海外とかさ。親の信頼なくしちゃうよ」

玉ねぎが飴色になったのでベーコンを入れて少し炒めてからご飯を入れた。
本心ではないけど、彼の心に響く簡単な言葉だ。

「お前が後悔しないならそれでいいよ」
「うん。でも次の衣装合わせだけはちゃんと出るよ」

後ろから抱きしめてきた彼のおかげで咳は止んだ。
けれど言わない。きっと彼が目を閉じて私を見ていないときでも言わない。

コンソメ顆粒とケチャップを入れながら、幸せに包まれながらも私の鼻は嘘で伸びていく。
< 149 / 208 >

この作品をシェア

pagetop