目を閉じたら、別れてください。
言いにくそうに髪を掻き上げる。視線は、テラスから見下ろす人ごみ。
「一年以上も女々しく好きだったのは、桃花だけだ。大学時代から狙ってたって言わなかったっけ?」
「その大学時代の彼女でしょ」
「彼女っつっても、きちんと終わった過去だし。思い出してもいい思い出はあんまないし思い出す気もなかったんだよ。でもさ」
背中を擦られて、顔を見る。
甘く切なく微笑むのは演技だと言ってほしかった。
「桃花との思い出は、思い出すと楽しいことしかなかったから、すげえ後悔しかなくて。次は後悔したくねえなって思ってたんだけど、不安にさせたなら俺が悪い」
「……いや、私が勝手にぐるぐるしてただけで」
「あと、井上に言った言葉だけど、本心じゃねえよ、俺は」