目を閉じたら、別れてください。
「……?」
空になったグラスの中の氷を回しながら、不機嫌そうに座っている男がいた。
思わず、パタンと大きな音を立ててドアを閉めてしまった。
「なんで」
「やっぱこーゆうことか」
目の前にいたのは、進歩さんだった。
明るい個室の中、ソファ席が四つと小さなカウンターにはシャンパンクーラーに入ったボトルとアイスペールが置かれている。
「斎藤専務に、結婚式の招待状で取引先の席を確保してほしいって相談されてここに呼び出されたんだけどさ、見ろよ」
閉めたドアを指さされ、振り返る。
すると小さなホワイトボードに『予約:嘘をついたら出られない部屋ご一行様』と書かれていた。
「叔父さん……」
「残念だったなあ。片思い相手の専務じゃなくて」
「……うそ、開かない」
ちょっと前に流行った『○○しないと出られない部屋』って漫画を思い出す。
なるほど、だからわざわざマジックBARなんかに呼び出したのか。
本当に嘘をついたら出られなくなりそう。
「もう腹割って話すしかないんだから、お前も覚悟きめろよ」
「うっ」
「専務に迷惑かけて、ガキの恋愛かよ」
彼のその言い分に、思わず持っていたグラスを投げつけた。