目を閉じたら、別れてください。
床に落ちたグラスは、見事に割れて散らばった。
彼は手でガードしたせいで、袖が濡れて手を伝いポタポタとお酒がこぼれている。
「お前なあ、酒をかけるのは百歩譲ってわかるが、グラスまで割るなよ」
「うるさい。あんたは、さっさとこの部屋から出ていけばいいじゃない。嘘なんてついてないなら、ね」
私が来るまで出られなかったということは、何か邪で後ろめたいことがあるんじゃないの。
自分は棚に上げて、にらみつける。
すると袖のボタンをはずしながらため息を吐く。
「悪かった。俺の態度が不安にさせてたんだろ」
「……なに、急に」
「笹山にも井上にも、吉田にも言われた。格好つけるなって。謝る」
お酒をかけたから酔ったのか、自白剤みたいに急にペラペラとしゃべり始めた。
「お前に一回婚約破棄されてるから、――必死でもう一度婚約してもらったなんて周りに言えなくて、格好つけてた。悪かった」
深々と頭を下げられて、呆然とした。
グラスごと投げた私に、彼は怒りもせずに嘘もつかずに、真摯な態度で目の前で頭を下げている。
「……お前が不安で嘘ついた理由は、俺の態度からだろ? 何か言えよ」
「えっと」
「嘘ついたら、出られねえよ?」