目を閉じたら、別れてください。
ずるずると、ホワイトボードを引っ掻きながら座り込む。
彼が咄嗟に、落ちているガラスの破片を足で蹴飛ばして遠ざけながら近寄ってくれた。
こういうところだ。口では悪態つくのに優しいところだ。
他人に、格好つけるために私の存在をぞんざいに扱うくせに、止まらない咳を気にして一晩中背中を擦ってくれるところ。
式の招待席の配置で、会社の派閥関係でもめていることも薄々気づいていたけど私には隠しているところ。
優しいのに、その優しさが恋愛からじゃないのが、辛かった。苦しかった。
どうして大学時代に、声をかけてくれなかったの。
どうしてお見合いで出会ってしまったの。
「少女漫画みたいな恋愛なんてないってわかってたからお見合いしたのに、お見合いで出会いたくなかった。恋愛して、一緒に親への挨拶とか結婚のタイミングとか悩んで、好きだから喧嘩して、好きだから結婚してほしかった」
「……なんだ、それ」
「恋愛していた可愛いモデルの女の子より、世間体を優先して結婚するのが辛いってこと」
わがままで自己中な発言に、彼が私の目の前で座ると同じ視線になってこちらを見た。
そして私の顔を見て、フッと馬鹿にしたように笑った。
「面倒くせえ」