目を閉じたら、別れてください。
「おーい、俺の面倒くさいハニーただいま」
「私の八方美人で金持ちだけど性格の悪いダーリン、おかえり」
「嘘つきな婚約者よ、今日のご飯は?」
「ハンバーグ。もうできるよ」
時計を外すと、キッチンの私の頭を撫でて頬に口づけ、まるで外国映画の恋人のような気障な行動をこなし手を洗いにバスルームの方へ消えていく。
私の狭いワンルームの家に上がり込もうとしてきたので、私が彼の何もない今にも夜逃げできそうな高級マンションに上がり込むことになって二週間。
『少女漫画のような恋愛がしたかった』と言った私に、進歩さんがノリノリで甘やかしてくれるようになった。口と態度と性格は悪いけど、今のバカップルみたいな会話は嫌じゃない。
が、朝、下着一枚でうろうろしたり、帰ってきたら私の下着を干してくれてたりするのは止めてほしい。そこは全力で戦った。
喧嘩になったときは、じゃんけんで勝った方の話から聞くことにしていた。
「なんか手伝いいる?」
「えーっと、今、ぺちぺちして手が汚れてるから、式場からの電話無視したからかけなおして」
「まじか。あー、そうだ。多分代行車の確認だ。あとでするって言ってたし」
進歩さんが手帳をめくりながら電話をしているのを、ホッと肩を撫でおろしているのは私。
今日は帰ってくるのが早すぎる。
私がダイエットしていたら『太っていない!!』と怒っていた。咳はぴたっと止まったものの、式前にダイエットで倒れる新婦が多いらしく、進歩さんの目が皿のように私を監視しているのだ。
なので私だけ豆腐ハンバーグにしているのがばれたら、うるさい。
いそいでソースで色を隠さねばならない。
同棲とは甘いだけではなく、隠し事を隠しとおす忍耐も必要になるのである。
「お前のおじいさん、リムジンで送迎しよっか。心臓止まるかな」
「やめてよ」