目を閉じたら、別れてください。
半ば強引に、婚約解消された。
なので半ば強引に俺も婚約しなおした。
一方にしか愛がない結婚は不幸になるらしい。
俺だけ執着して、俺だけ桃花が好きで、――桃花は面倒くさくない相手だから妥協してくれているんじゃねえかなと。
愛情はあるが、俺だけあるみたいな現実は少し寂しく感じられた。
「利益がある、それだけで俺はいいっすけど」
「……どういう意味?」
専務は本当に分からないって様子で首を傾げた。
「別に桃花が俺を、『条件のいいお見合い相手』としか認識してなくても、俺はあいつが好きで、俺にもあいつにも利益があるなら、俺はそれ以上はわがまま言わないってことです」
「……んん? 私は、君が桃花に愛情があるかって聞いたのにどうしてそんな返答になるのかな」
「一度大嘘たたいてまで逃げられた身ですからね。俺だけ愛情があると、ちょっと気持ち悪くないっすか?」
俺の言葉に、専務は少し下を向く。伏し目がちの目が、男の俺でも色気があるなとかんしんしてしまった。
「やはり、桃花の一番最初のあの嘘が、君をとても傷つけていたんだね」