目を閉じたら、別れてください。
「神山部長、スーツの中の携帯がずっと鳴ってますよ」
同じ部署の新人が車から降りて俺に手を振る。
俺が提携先の社員たちと地図を広げて実際の位置等を確認している間、暑さでダウンしたひ弱い新人だ。
車の中で休んでいる指示をしていたが、まだ顔色は良くなっていなかった。
「寝ているときに悪いな。具合は?」
「すいません。もう少し」
「いや、俺さえ把握してればいいことだから、気にすんな」
八方美人と桃花に言われるだけはあって、一応顔合わせで大事な場面だが体調管理の甘さを指摘できず、そう労わっておく。
俺だったら、外出前に体調悪いことを言っておく。
そうすれば現場で迷惑かけることはない、と思うのだが。
ジャケットの中の携帯を取り出しながら、そんな嫌みが浮かぶから俺は性格が確かに悪い。
桃花も、こんな俺によくもまあ夢見るように結婚を承諾してくれたな。
「……斎藤専務からだ」
着信は数分おきに専務からかかってきていた。