目を閉じたら、別れてください。
俺としては、代わりが来る以上体調の悪い部下がここに居ても役に立たないので帰ればいいと思う。
が、動揺してるのか体調の悪い本人に決めさせようとしていた。
「いや、すまん。一緒に――」
「いえ。急な用事でしょう。僕は良いからさきに行ってあげてください」
顔色が悪いくせに、強がって笑う。
……森は案外、根性があるのかもしれない。
さっきまでの悪態は、俺の心の中で忘れてしまおう。
「悪い。婚約者が倒れて病院に運ばれた。あとは任せたぞ」
「えええ。何してるんですか。僕なんて置いて、さっさと駆け付けてあげてください」
「ふ。言われなくても」
運転席に乗って、ハンドルを握ると深呼吸して鍵を回した。
そういえば、ずっと咳をしていたっけ。
生理中だとか言って、夜食べる量が少なかったり、朝、先に出ていたりして、あいつが食事を三食きちんと食べているかも確認していなかった。
嘘つきだと、忘れていた。甘い時間に惑わされて――あいつのウソにまた気づかなかった。
けれど、どうか。
願うのは――桃花の無事だけだった。