目を閉じたら、別れてください。
Side:都築 桃花
四角い光が瞼の裏からでもわかった。
まぶしくて目を開けると、カーテンの揺れている窓から光が差し込んでいた。
真っ白な部屋で眠っていたらしい。
「……なんだ、天国か」
場所が分かって目を閉じたら、頬にピリッとした衝撃があった。
「いたっ」
「ようこそ、天国へ」
感情のない、――いや今にも爆発しそうな無表情の彼が立っていた。
真っ白い部屋で彼が立っている。
「ああ……死ぬ前に一番会いたい人に会えたわけだ」
おじいちゃんとか叔父さんとかお父さんお母さんではなく、なぜ彼だったかというと、彼には私とではない人生があるからだ。
「私が天国に行ったら、他に面倒くさくない人と結婚していいからね」
「……いいのかよ」
「うん。私が目を閉じたら、別れていいよ。死んだら、別れてください」
それでもっと進歩さんにお似合いな、美人で器量よしで親の評判も良くて、甘えさせてくれて甘え上手で床上手なお嫁さんをもらってください。
ただ、私が生きてる間は見たくないので、私が死んだら解放してあげるからそれまでは駄目。
私が死ぬまでは私のものでいてほしい。
「そうか。だが、お前は散々嘘をついてきたのに、天国にいけると思ってんのか」
「いたっ」
鼻をつねられて、進歩さんの方を見上げる。
「……それにな、無理なダイエットで貧血起こしただけで天国とか寝ぼけるやつが簡単に死ぬか、あほ」