目を閉じたら、別れてください。
「へ……?」
急に世界がクリアになった。天国という幻想にとらえられていた私は、どうやら寝ぼけていたらしい。
ネクタイが曲がっている彼のとなりに点滴が見えた。
その点滴の管が、私の左手につながっている。
「うわあ……点滴が……ブドウ糖が……せっかくダイエットしてたのに」
「まーだーいーうーかー! 自分の健康管理もできてねえから点滴なんだろ。いい加減にしろ」
ぎゅっと鼻を摘ままれ、じわりと生理的な涙がにじんでくる。
「DVだ! 入籍前からDVとは! この結婚に不安しかない!」
「同じく不安しかねえわ。ダイエットで倒れんなよ。そのまんまで全然可愛いだろうが。バカじゃねえの。バカかよ。いいや、バカだった。こいつ、バカだわ」
途中から自問自答しだした進歩さんは椅子に座ると溜息を吐く。
「今のお前の体重と体のラインは、無理なダイエットが必要とは思わねえ。お前が通ってるエステについてくぞ。誰がこんな強制させたんだ」
「……だってドレスに肉が乗るんだもん」
「乗らねえ。結婚式で一番祝福されるお前の肉チェックなんか誰がするか。一番結婚式でみられるのはお前が幸せ顔してるかだよ。つまり、俺がお前をちゃんと幸せにさせてやれてるか、だ」