目を閉じたら、別れてください。
「全然、エッチが気持ち良くない」

嘘だった。いや、嘘でもないか。
一番、これが私の背中を押している。
彼から距離をとろうと必死で背中を押して逃げている。

「お腹の傷を見る度に謝られるの、うざいんだよね。もういいでしょ？」

それは本当。彼が悪いわけではない。ただの事故だったのに、何度も謝られたらきつい。
触れる度に悲しい顔をされるのも嫌だ。何度もそこを舐めたり、恐る恐る触れたり、腫れ物に扱うのも嫌だった。

「桃花、俺は」
「しつこい」

何を言っても、真面目な彼は私を諭そうとする。
落ち着いた彼の言葉、冷静な判断に、結局うやむやにされてしまうんだ。

そんなことを何回も繰り返して、うんざりしていた。

「私、――なの。だから、もう恋愛しないことにした」

零れ落ちた嘘に、冷静な彼が目を見開いて慌てるのが分かる。
それが楽しくて、私は笑いそうになって急いで顔を背けた。

「目を閉じて。最後にキスぐらいしてあげるから」
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