目を閉じたら、別れてください。
安心したように、ようやく頭をガシガシ撫でていた手が頬に落ちた。
頬をなでなで優しくしてくれたので、目を閉じた手の感覚にうっとりしてしまう。
重い病気だったら、この先この指を、この悪態の中のあふれる愛情を独占できない。
それに、大切な人を悲しませてしまう。
それだけは、彼だけは大切にしたい。
本当に私の目がいつか閉じたら、じゆうになっていい。別れてください。
でも目が開く今は、この人が私だけのものでありますように。
撫でていた手が、唇をなぞる。
窓からの光が遮られ、彼の影が覆いかぶさってくる。
触れる唇は柔らかくて暖かくて、私は何度も強請った。
薄く唇を開いて誘うと、焦れて手を伸ばした。
「!?」
伸ばした手がビンッと釣ったので目を開けると点滴を刺していた左手だった。
点滴が逆流して真っ赤になりだしたので慌てて進歩さんにしがみつく。
「おま、―-お前なにしてんだよ」
ポコと軽く頭を撫でられ、ナースコールを呼ばれた。
クスクス笑いながら、ベットに座って私を落ち着かせてくれる彼が、メチャクチャ、世界一、どうしようもないぐらい好きだと自覚せずにはいられなかった。