目を閉じたら、別れてください。
結婚式場は、昔の華族が使っていた屋敷を式場に改装してあるレトロな屋敷。
庭にある池に小さな橋が架かっていて、その向こうに木々に囲まれた教会がある。
屋敷の二階の新婦の控室で、最終段階のベールが今、私の頭に優しく置かれた。
苦しい。ぎりぎりまで閉めてもらったコルセットに、一時間かけて綺麗に塗られた肌。
控えめなローズピンク色に濡れる唇。白いウエディングドレスは、窓から差し込む光でキラキラと輝いている。
ティアラは断ったものの、髪飾りは驚くほどの値段のもの。
結婚式とは、途中から金銭感覚が分からなくなるから怖い、怖い。
両親に渡す花束もランクつげしてあって、一番いい花束は数万とか言われたがなん百万とかかった結婚式にそれぐらいまあいいかなって思ってしまうから不思議だ。
「すごい。お金かかってるだけあって、顔もいつもよりきれいな気がする」
「気がする、じゃなくてめちゃくちゃ綺麗よ。おじいさんの心臓が止まっちゃうんじゃないの」
沙也加が隣で鏡を覗き込みながら、クスクス笑っている。
受付を頼んだら、井上君とならいいよと嬉しそうに引き受けてくれた。
本当に私の周りの人間は私以外はできた人ばかりだ。
「おじいちゃんならさっきから何回も入ってくるの。ずっと居たらいいのに、照れちゃってさあ。可愛いったら」