目を閉じたら、別れてください。

オオカミ少年は、言いました。
『狼は来たぞ!』
毎回嘘を吐かれていた村の皆は、ある日少年の嘘に騙されるのを止めました。

『狼が来たぞ!』
誰も信じてくれません。

『本当に狼が来たんだ!』

少年が騒いでも、もうだれも見向きもしません。
当たり前です。少年は楽しさに浮かれて信用を失っていたのですから。
自分では狼を追い払えないのに、自分の言葉で皆が駆けつけてくるのが楽しくて。


オオカミ少女は、嘘を吐きました。

『あの事故で、お腹にケガをした。だから子供が産めない。だから恋愛はしません』

少女を信用していた彼は、その嘘を信じてしまいました。
けれど、本当はその彼は――。


「やばああーい。庭が広いしぃぃ」


本当の彼は、意地悪で超金持ちで、性格自体が嘘だったのです。

一見様お断りの老舗店『藜』
料理屋なのか旅館なのか呉服屋なのか、看板さえ出ていない。
恐る恐るタクシーで向かったが、高級老舗料理屋を通り過ぎ、路地裏に時が止まったように大きな日本家屋が建てられているだけだった。
延々と続く土塀の向こうに、迷路みたいな庭を通ると、廊下が繋がっている三棟の部屋。
案内された部屋は手入れされた庭を眺める、ごく普通の部屋だった。
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