目を閉じたら、別れてください。
『なんで?』
『今日はそんな準備してないので無理でーす』
『というか、別れたんだからエッチしないよね』
『あ、誰でもいいから、目の前に来た女は食べちゃうタイプ?』
『大変だ―。神山進歩は狼だぞ!狼だぞう!』
『でもウソツキの私の話を、誰も信じてくれなかったのでした』
『ちゃんちゃん』
待っても待っても、返信は来なかった。
返事もない。本人も来ない。テレビもない。
これで二時間待たされるなんてたまったものじゃない。
『おい、少しは返事をしないか!』
『返事をしないってことは、うっとおしいって思ってるな!』
『そんな程度の相手に、エッチできると思うなよ』
『神山進歩は狼だぞ!』
『がおーがおー食べちゃうぞ』
まるで壁に話しかけているみたいだった。
そうだ。神山進歩のてんぷらを食べてやろう。
海老の衣だけを残して、中身を食べてやろう。
「あのさあ、用もねえのにメール止めろよ。電池、29パーセントになってるじゃん」
「うわ、来た」
あと数十秒遅かったら、天ぷらが私の胃の中に入っていたのに。
少し息を切らした、不機嫌そうな神山進歩が、ネクタイを緩めながら私の目の前に席に座った。
携帯の液晶画面を見ると、まだ22時を少し過ぎたぐらいだった。
彼は座椅子の背もたれに脱いだ上着をかけると、私を睨む。
「酒くせえ」