目を閉じたら、別れてください。
「酔っ払いに呼び出されてもなあ」
はんっと嘲笑うと、冷たくなった天ぷらを摘まむ。
あーあ。数分遅かったら私が食べていた天ぷら。
「嘘を吐いたのは、ごめんなさい」
「……」
「でももう、一年前に終わったことだから、お見合いとか婚約云々はもうやり直したいとは思っていなくて」
言い終わらないうちに、舌打ちされて顔を上げた。
忌々しいと言わんばかりに私を睨んでいた彼が、今にも殴りかかりそうな顔をしている。
その顔を見た瞬間、自分が吐いた嘘が彼を一年間苦しめていたのを察してしまった。
「お前が、あの事故で子供が産めなくなったって言って、俺がはいそうですか、って身を引くと思っていたのか」
「御曹司だから跡取りが産めない女はいらないかなって」
「本当、お前の思考回路って最低だな」
箸をおくと、彼が自分の横を指さした。
「隣に来い。俺の隣に座れ」
「……」
「警戒してんじゃねえよ。こちとらお前と違って身分ある身だ。襲うかよ」
何を考えているのか分からないので、目はそらさないまま座布団をもって移動する。
「こんなときにちゃっかりしてるとこだよな」