目を閉じたら、別れてください。
彼から下りてきた唇。
見つめられたら逸らせないほどの目力。
こんなイケメンに見下ろされて、金縛りにあうぐらい情熱的に見つめられて、恋愛経験のない私は……頑固たる意思がないと拒絶できない。

伸びてくる彼の手が、腰に回る。

引き寄せられて逃れられない。

キスしたら終わりって言ったのに。

目を閉じたら、夢から覚めて終わっていてほしい。

彼の手が背中を擦る。

なし崩しに押し倒されながら、私の意識の隅で思ったことは、今日の下着はどんな色だったっけ?ってこと。

緩んでいたネクタイが解けていく。
畳の上に落ちていく。うねうねと蛇のように。

ベルトの音が聞こえてくる。逃げるなら、今しかない。
なのに、ベルトが抜かれて放り投げられ、再び降りてくる彼の重みや熱に逃れられなかった。


恋愛はタイミング、らしい。

私は、逃げるタイミングが分からなかった。

キスが、嫌ではなかった。

頑固たる意思がない、ふわふわした女だ。

流されるような、こんにゃくのような柔らかい意志を持つ、――嘘つきな女だった。
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