目を閉じたら、別れてください。
遠回り、逆回り、急がば道を壊せ。
水の音がして、目を開けた。
何の音だろうか。枕元にいつもある携帯が、今日はシーツの上で手を蠢かせても捕まらなかった。

仕方なく起き上がると、縁側の方からシャワーの音がしてきた。

恐る恐る上半身を起こすと、身体の異変に倒れ込む。

……ヤった。エッチしてしまってる。
生々しく転がる破り捨てられたスキンの包みと、飛んでいって畳の上に置かれている下着に悲鳴をあげそうになった。

ありえない。なぜ流されたんだ都築桃花。
いい年して、なぜ別れた相手と別れ話をするはずが、エッチしてんだ。

酒のせいか。酒のせいなのか。酒は言い訳になるのか。
とりあえず彼がシャワーを浴びている間に帰ろうと服を来てあわあわしていたらいつの間にかシャワーの音は止んでいた。

代わりに縁側のドアが開く。

寝たふりして布団の中で服を着ながら、彼の行動を伺う。

するとライターで火を付ける音と、縁側のドアを開ける音がした。
煙草を吸っているのだろう。そして徐に声がした。

「もしもし? 何度も電話してくんなし」
悪代官みたいな悪い笑い声が聞こえてきた。

「あ? ああ。寝たよ。昨日は超お楽しみだった」
「――?」
< 66 / 208 >

この作品をシェア

pagetop