目を閉じたら、別れてください。
私の嘘で傷ついて離れてくれたのかなって良心が痛んでいたのに、真実は違う。

この人は、会社に戻るにあたって私との婚姻関係が必要だから必死だったんだ。

「仕事のために、好きでもない女を必死で口説いて、馬鹿じゃないの。抱いて、あんたホスト以下のうんこ野郎だわ!」

首を絞めてやろうと両手で握ると、彼は突然吹き出した。
反省していない大笑いに、このまま本当に殺しかねないと自分で自分が止められないのを感じていた。

「言い残すことはない?」
「ごめんごめん。あんたが起きてるの分かってて、嘘だよ嘘」
「……は?」

手に持っている携帯を差し出されて固まった。

真黒な液晶画面に、首を傾げる。

「昨日、酔っぱらった誰かさんが散々メールしてくるから、携帯の電池ほぼなくなってたんだよ。で、朝のアラームでとっくに切れてた」
「はあああ?」
「まあ、斎藤派閥の話は、大げさだけど嘘じゃねえけど。一年も騙されていたから俺も嘘つこうかなって」

勿論、彼の両頬に紅葉のようにくっきりと私の手形が残ったのは、言うまでもない。

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