目を閉じたら、別れてください。
「おい、悪かったって」
「うるさい」
「金曜は、違う場所にするから」
「ついてこないで」
半べそで、メイクもぐしゃぐしゃで、それでも絶対に死んでもこいつに送ってもらいたくなくて歩いて帰る。
あの店、進歩さん素通りで出てきたけど、お支払いはどうなってるんだろう。
奢ってもらった形になったのも悔しい。半分はあいつの顔に投げつけてやりたかったのに。
進歩さんは、のろのろと車を私の隣に合せて徐行している。
朝だしこんな場所なので車も人の気配もない。
「この状態を誰かに見られた方が、逃げ場ねえよ? 俺は恋人だっていう。お前は恋人じゃねえって言う。恋人じゃねえのにのこのこ此処についてきた方が――」
「っち。うるせえな。乗ればいいんでしょ乗れば」
つい地が出てしまったが、今更隠す必要もない。
露骨に嫌そうな顔で乗り、足を組んで睨む。
「家まで送って」
「はいはい。お嬢様」
ご機嫌な進歩さんが腹立たしい。
「さっきの、もしかしたら電話中に電池が切れたかもしれないし、咄嗟のウソにしてはすらすら喋ってたから、本音が入ってると思うんだよね」
「流石、ウソツキ。観察眼鋭いね」
ハンドルを持つ手を、抓ると『DV反対』と唇を尖らせてきた。
この人のペースに乗ってしまうわけにはいかない。
どうしたら諦めてくれるのかな。
全然、進展がなかった。このまま流されてしまいそうだ。
酔っててほぼ覚えてないけど、エッチ……下手じゃ無かったよね。
キスだって、触り方だって、愛撫だって、丁寧だったよね。
思いだしたら、この隣の憎き相手と改めて寝てしまった自分に後悔しかしない。
「焦ったというか、焦ってる。ここまで嫌われてるとさあ、――どうしていいのか分からねえじゃん」