目を閉じたら、別れてください。

急に弱気になってきたので、窓の方を見て顔を見ない。
騙されたくない。

「手に取って分かるようなかわいい子を探してください」
「……俺は、短い間だったけど桃花と付き合ってた日々は楽しかった。このまま結婚するんだよなって思うと、胸が温かくなるっての? すげえ楽しみだった」
「――だから」

「過去のことは気にしない。昨日のことは俺は忘れない。そのうえで、――お前は本当に俺が嫌か?」

車が止まった。
信号でもなく、道の端に止まっただけ。
見たくないから逸らした。
その私の横顔を、彼は見ていた。

耳に髪をかけられて、その仕草が本当に優しくて愛しいものに触れるように思えて、胸が飛び跳ねた。

「嫌か?」

ここまで冷たくして、暴力的で、短気で大雑把な私に執着しないで。

さっき、不覚にも泣いてしまった私を早く忘れて欲しい。

ホッとした。嘘で良かったってホッとしてその場で泣いてしまった私に、――両頬に紅葉を作っているのに抱きしめてくれた彼との記憶を、私の中から消してほしいだけ。

まるで感情に振り回される少女漫画のヒロインみたいで私が私ではなかったのだから。
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