目を閉じたら、別れてください。

ロッカールームでできそうな仕事を、再びダッシュでデスクから集めて逃げ帰った。

しまった。忘れていた。それでいて、この子は今年からここに入社したのだから、彼と私の関係を知らないんだ。

神山進歩。

うちの叔父が本社で勤務していたと、祖父のアパートの仲介業者がこの神山商事だった。
それで二年前に、社長のお孫さんとお見合いの話が来て――。
その席で現れたのが神山進歩だった。
磨かれた銀色のフレームの眼鏡は神経質そうで、真面目そうで寡黙で無口な彼ははっきり言えば第一印象から好感触だった。
気取ったことや気の利いたことは言わないけど、背筋がぴんとして凛とした好青年。
眼鏡を外したら、あの整った造形がもっと引き立つんじゃないだろうか。

そう思うほどの美形でもあった。

『一目会った時から決めていました。桃花さんの意見はどうでしょうか』

眼鏡を指先で上げながら、照れもせずに言われ舞い上がった。
なんて格好いい人なんだろう。誠実で嘘なんて吐かなさそう。
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