目を閉じたら、別れてください。
『私でいいのなら、まずはその、デートでも』
浮かれた私は、彼を振り回す。
デートは一方的に話して、一方的に連れまわしたけれど、懐の大きい彼は嫌な顔もしなかった。
それが益々私を舞い上がらせていた。
「あーあ……」
うっかりしていた。彼は銀行員で、海外赴任なんて出世街道まっしぐら。
だから、この神山商事に戻ってくるとは思っていなかった。
海外で金髪でスタイルの良い、フェロモン系の女性に騙されて国際結婚ぐらいするんじゃないかって思ってたのに。
まさか、戻ってくるとは。
しかも、副社長に就任って、会社を継ぐ気満々だよね。
さっき一瞬、別人かと思った。
だってあんな風に声に表情が付く人ではなかった。
顔を見る前に逃げ出したから別人かと思ったんだけど。
「出てこい、桃花」
「ひ」
ロッカールームの間で、扉をノックされ飛び上がった。
「いるな、そこに」
……なんか口調も違う。神山進歩はもう少し敬語で丁寧に喋る人だった。
「いるよな。分かってるんだからな」
「……い、いません」