目を閉じたら、別れてください。
「……別に」
伊達じゃん。本当の眼鏡じゃないじゃん。
でも格好いい。見上げると彼の顔がいつもより知的で優しく見える。
「顔と言葉が違うねえ。まあそれも可愛いけど」
「う、わ、甘い。うひゃあ、甘い甘い」
「お前なあ」
くしゃくしゃと髪を触られ、逃げる。
じゃれあいながら横断歩道迄歩くと、信号が赤だったので止まった。
いつもならさっさと歩いて街並みなんて見ないけど、今日は交差点で携帯を取り出して二人で地図を確認する。
「ゾンビバーだっけ? あの建物の二階だろ」
「お、流石。この仕事柄けっこう場所に詳しくなるよね」
「まあな。――っ」
指さした建物を見て、眼鏡の奥の瞳が見開いた。
一瞬だったけれど、何かを見て驚いていたと思う。
私もその建物を見るが、首を傾げた。
大きな看板が一つ。女性が風邪薬をもって『貴方の風邪は大丈夫?』と書かれている。
「予約何時だっけ?」
「20時30分。進歩さんが遅くなるって言ってたから、余裕をもって取ろうって言ったじゃん」
「そうだっけ。あ、青」
一斉に交差点の信号が青になり、人ごみの中歩き出す。
はぐれないように彼が手を繋いでくれたのだけど、そんなこと付き合っていた時はしたことがなかった。
「……」
違和感を感じる。