青い僕らは奇跡を抱きしめる


 俺が小学4年生の頃、夏休みに母に連れられて伯母の家に数日の泊りがけで遊びに行ったことがあった。

 芳郎兄ちゃんはちょうど高校受験を控えた忙しい夏で、その時は塾の強化合宿があったらしく、家には居なかった。

 いつも相手してくれる芳郎兄ちゃんが居ないと、少しがっかりしたが、その分、伯父も伯母も自分の息子を補うように俺を可愛がってくれた。


「折角来てくれたのに、芳郎がいないと悠斗ちゃんも遊ぶ相手が居ないから、つまらないかもね」


 伯母が気を遣ってくれる。

 いつも遊んでくれる芳郎兄ちゃんがいないのは残念だったが、受験だし、いてもきっと遠慮して遊べなかったと思うと、俺は気を遣って首を横に振った。


「あっそうそう、お向かいに葉羽(はばね)ちゃんという女の子がいるんだけど、悠斗ちゃんと同じ学年だから、一緒に遊べるか頼んであげる」


 俺は一瞬、女の子と聞いて気が乗らなかった。

 そこまでして自分の遊び相手を無理に用意されなくてもいいのに。

 自分の意見を言いたいと唇が微かに動いたが、伯母に遠慮して声が伴わなかった。

 ニコニコとたおやかな笑顔の伯母に、逆らってはいけないものを子供心ながら感じ、俺はただ曖昧に笑ってごまかした。

 それを歓迎とみなした伯母は、俺のために躍起になって、早々と家を出て向かいの家に走り、その日の午後一緒に遊ぶ約束を取り繕ってきた。

 伯母の事だから、俺が是非とも遊びたがっていると、大げさに言ったことだろう。 

 伯母はこの近所でも頼られてるところがあり、何かあると面倒見がとてもいい。

 そうなるとその反対も然り、伯母が頼みごとをすれば、拒む人がいないくらい、とても信用された人望の厚い人だった。

 だから俺もそれを充分理解してたからこそ、気乗りしなくても断ることなどできなかった。

 伯母の意見は、素直に聞くのがいつも正解だった。
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