青い僕らは奇跡を抱きしめる
 自分の母親と言えば、そんな姉に甘えて頼りきっては、俺のことなどすっかり眼中から消えて好きな事をし始めた。

 手始めに買い物に行くと言い出して、伯母に車を出してもらってさっさと準備をしてしまうから、俺も同じように家からほっぽりだされて、そのお向かいの葉羽の家に嫌がおうでも行くことになってしまった。


「よろしく頼みます」


 頭を下げて、母も伯母も俺を向かいの家に置いて、さっさと去っていった。

 こんなことが出来るのも、伯母の近所付き合いの中で、花咲家は特に仲がいいからだった。


 芳郎兄ちゃんが、ときどき葉羽の勉強を見てやることもあるらしく、この花咲家は俺が芳郎兄ちゃんの従兄弟というだけで、面識なくとも、すでに芳郎兄ちゃんと同じ分類として信用しきって受け入れてくれた。


 実際俺は、芳郎兄ちゃんなんかと比べものにならないくらい、月とすっぽんだというのに。


 知らない家で気を遣うのも、かったるかった。

 あまり愛想もなく、その家の敷居をまたぐ。


「いらっしゃい」


 その家の母親が、上品な笑みを浮かべ明るく歓迎してくれた。

 庶民代表の生活に疲れきっている俺の母親と、全く対照的な気品と優雅さに、俺は一瞬たじろいだ。


 この街に住んでいるというだけで、この辺りは誰も彼もが生活に余裕を持った金持ちということなのだろう。


 それについては俺は子供過ぎてまだ妬みも感じなかったが、子供心ながら金があるところは生活に余裕があるだけじゃなく、心にも余裕ができて自然と優しくなれるんだと自分の生活と比べて感じていた。

 だから葉羽にもそういう気質が元から備わっていたから、むっつりした俺でも、気遣って優しくしてくれたに違いない。

 そういう気遣いを肌で感じ、俺はどういう態度で接したらいいのか困惑して、玄関先で棒のように突っ立っていた。
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