青い僕らは奇跡を抱きしめる
「ええと、芹藤悠斗君だったね。さあ、どうぞ遠慮せずに上がってちょうだい」


 葉羽の母親は、温かく俺を迎えてくれた。

 その後ろで、少し恥ずかしげに葉羽が様子を伺っていた。

 もう一人、小さい男の子が俺をじっと見ている。


 どちらも人見知りするのか、恥ずかしがって母親の服をつかみ、緊張しながらもじもじしていた。


 俺は、覚悟を決めて遠慮なく「お邪魔します」と、大きな声を出して家に上がると、二人はどきっとして、体がぴくりと反応していた。


「えっと、こっちが葉羽で、こっちが弟の兜(カブト)。ほら、挨拶は?」


 消え入るような声で葉羽は「こんにちは」といい、兜はただ目をらんらんとさせてじっとみていた。

 その時の葉羽は、お転婆を思わせるショートヘアーをしていた。

 でも、全然活発そうでなく、どちらかというと、体が細くて背も小さいので、ヒョロヒョロとしたもやしみたいだった。

 顔の印象は、会ったばかりだから、かわいいとか、そういうのを全く意識しなかった。

 ただここで一緒に遊ばないといけない苦痛を、どう乗り越えようかとそればかり気にしていた。

 まだお互い小学生であまりにも子供過ぎて、容姿など性的な魅力を気にかけるようなものじゃなかった。

 ただ、葉羽という名前の響きが、どうも唐辛子のハバネロを思い出させて、変な名前だななんて思ってはいたけど。

 でも、葉っぱの羽と書いてハバネと読む漢字を知ったとき、なんとなく昆虫のイメージがわくと、弟の兜もカブトムシを連想させた。

 花咲葉羽と苗字とくっつけば、葉羽は花咲くところで飛び回る妖精にも感じられた。


 実際彼女は妖精だったのかもしれない。


 そんな事をこの近所に住む緑川さん、通称サボテン爺さんもそう言っていた。

 サボテン爺さんとは名前のごとく、サボテン好きで、サボテンをいくつも育てているこの街の名物爺さんだった。

 家の周りにはサボテンが植えられて、そこだけアメリカのアリゾナ州か、またはメキシコのようになっている。


 別に、沢山サボテンを植えたからといって、人に迷惑をかけているわけでもないので、皆は親しみを込めてサボテン爺さんと呼ぶらしい。


 サボテン爺さんの話は、遊び出すとすぐに葉羽の口から出てきた。


 もしこの時、サボテン爺さんの話がでなかったら、俺は葉羽と深く交わる事がなかったかもしれない。
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