青い僕らは奇跡を抱きしめる
 俺もよその家に招かれてる分、立場は分かっていたので、とりあえずは殊勝に話しかけてみた。


「葉羽もおもちゃ持ってるの? だったら見せて」


 女の子の玩具など興味もなかったが、こういうのは自慢して嬉しいということもあるので、話を円滑に進めるためにとりあえず訊いてみた。

 葉羽は最初はもじもじしてたが、見せたいものがあったらしく、部屋を飛び出して再び色んな物が入った箱を抱えて戻ってきた。


「それ、何?」


 箱の中は玩具が入っているというより、カラフルな道具が顔を覗かしていた。

 葉羽はその中の一つを取り出して、突然わざとらしい声をリズムよく上げた。


「種も、仕掛けも、あ~りません!」


 葉羽が取り出したものは、少し大きなマッチ箱のような木箱だった。

 中身を俺に向けて見せてくれると、空っぽだったが、葉羽がその中に小さなコインを入れ再び蓋を閉じた。


「それでは今からこのコインを消して見せます。えいやっ!」


 掛け声をかけてから、再びスライドさせて箱の中身を見せてくれた。

 葉羽は笑顔一杯に俺を見ていたけど、俺は固まったようにじっとして、何の反応も示さなかった。


 というより、呆れて唖然としていた。


 こんな手品は見慣れているし、種もわかっている。

 仕掛けがあるから、コインは箱のどこかに引っかかって隠れているだけで、消えたと思わせる。

 それだけで白けるというのに、この場合、そのコインはそのままそこに座っていて、全く消えてなかったから、正直俺はどうリアクションしていいのかわからなかった。

 この場合、よそ様のお宅にお邪魔しているということで、とりあえずはおだてるべきなのか、それとも優しく残念だったと労うべきなのか。

 それにしても滑りすぎて、おだてる要素も、労う要素も全くない。

 その失敗に葉羽もやっと気がついたのか、バツが悪そうにして、ただ取り繕うようにごまかし笑っていた。
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