青い僕らは奇跡を抱きしめる


「ちょうどいいところに来た。今新しいマジックの練習やってたんじゃ」


 鳥の雛を連想するような、産毛がちょっと生えた禿げ頭が、まずぱっと目に入り、顔にはチョコレートをつけたような染みがところどころ出ていた。

 骸骨っぽいごつごつした細さがあったが、葉羽を見るなり嬉しそうに微笑んだ顔は、人の良さそうな優しいおじいちゃんだった。

 この人もお金に余裕があって、道楽でサボテンを集めたり、手品をやってるように思えた。


「シショ、今日友達連れてきました。いっしょにいいですか?」


「おお、歓迎じゃ。さあさ、中へ入りなさい。暑いのによく来てくれたな」


 葉羽を余程気に入っているのか、優しい眼差しを向けて破顔し、サボテン爺さんは手厚く俺たちをもてなしてくれた。

 葉羽の友達というだけであっさりと俺までも家に招きいれ、俺たちはサボテン爺さんの部屋に通された。

 その部屋は和室の畳部屋だったが、なんだか薬草めいた年寄りの独特の臭みがあり、色んなものが無造作に溢れかえっていて、息苦しさを感じた。

 ようするにごちゃごちゃしていて、想像していたのと違って汚かった。


 案外とずぼらな人なのかもしれない。


 その分、気が置けない気楽さも感じて、俺もサボテン爺さんを気にいりかけていた。


 俺たちは冷房の効いた部屋の畳の上に座らされると、サボテン爺さんは「ちょっと待ってて」と席をはずした。

 汗が急激に引いていくのを感じ、その涼しさにほっとしていたつかの間、サボテン爺さんが、再び現れたときは目が飛び出る程驚いた。


「ええっ」


 声にならない、驚きが喉から反射して、俺が圧倒されてるのに、葉羽と兜は平然としているから、俺は息を飲み込んでその場の空気を読んだ。

 見れば見る程、サボテン爺さんは奇妙だった。

 てかてかの金ぴかジャケットを着て、首には扇子を二つあわせたようなヒダヒダがついた七色の大きな蝶ネクタイをしていた。

 宴会で催されるようなかくし芸にぴったりの素人らしい服装だが、慌てて穿いたのであろうか、ジャケットとおそろいの金ぴかパンツのファスナーが潔く開いていた。

 見事に社会の窓を全開したまま、恥ずかしげもなく、一人ノリに乗った掛け声をかけながらくねくねと独特のリズムで踊りまくっている。


 みていて恥ずかしくて、顔を伏せたくなったが、葉羽が「よっ、シショ、かっこいい」などと声を掛けるので、どこがそう思えるのか怖いもの見たさで再びじっとみてしまった。
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