青い僕らは奇跡を抱きしめる
 サボテン爺さんはどこか変わったおかしな雰囲気がするが、子供にも丁寧に話し、身振り手振りで熱く語るので、それが楽しい。

 葉羽が師匠と呼ぶだけあって、俺もすぐに魅了されてしまった。


 アイスクリームを食べ終わると、サボテン爺さんは、部屋のあちこちに散らばっていたサボテンの鉢植えを、テーブルに置き出した。


 これもまた手品と同じくらい意味のあることなのだろう。


「どうじゃ、かわいいだろ」


 まるで自分の子供達を自慢するように、サボテンを見せてくる。

 そこにはとげとげをいっぱいつけた、色々な形のサボテンがあったが、花を咲かせてるものあり、言われて見れば可愛く思えてくる。

 その棘に触れれば痛いのだろうが、緑色のぼてっとしたボディは愛嬌があった。

 サボテンは接ぎ木をすることができ、中にはサボテン爺さんが改造したものも含まれていた。

 とにかくサボテンに魅了されて、どんどん増えていってしまったらしい。

 サボテンに憑りつかれた爺さん。

 そこにはサボテン爺さんの信念も関係していた。


「サボテンはいいぞ。不思議な力を持っていてな、特に満月の光を浴びると不思議なことが起こるんじゃ」


 その話を興味津々で葉羽は聞いていた。

 俺はこういうオカルト的、またはスピチュアルな事には少し冷めていたので、これも大人が子供を騙すよくある手だと思って、適当に聞いていた。


「シショ、一体どんな不思議な力があるんですか?」


 葉羽がもっと知りたいと目を輝かせている。


「さあ、いろんなサボテンがあるから、どんな力があるかはっきりといえないけど、とにかく奇跡を起こす」 


「奇跡?」


 俺が思わずそう繰り返すと、サボテン爺さんは感慨深くゆっくり頷いた。


「どうじゃ、サボテンが欲しくなっただろう」

 サボテン爺さんは、サボテンを広めようと、ロビー活動するどこかの団体の回し者だろうか。

 そんな話をされても、俺にはどうでもよかった。

 奇跡なんて何が起こって奇跡というのだろうか。

 俺には縁が遠すぎた世界だった。

 漠然としすぎてピンとこなかったのもあるが、俺はただサボテンを見ていた。

 兜もまだ小さすぎて話が飲み込めないのか、俺と同じようなリアクションだった。

 だが、コイツの場合どうも冷めたガキという要素は元からあるようだったが。


「いいんじゃよ、欲しいサボテンがあったらあげるよ。遠慮なく言ってごらん」


 気前のいいおじいさんという事は分かったが、サボテンは棘があるだけに痛々しげで欲しいとも思わなかった。

 でも葉羽はサボテン爺さんの言うことは、全て自分の喜びとでもいうくらい笑顔になって、素直に欲しそうな顔を向けていた。


「シショ、ほんとにいいんですか。私、あのサボテンが気になって」


 葉羽が指差したのは、台所の流しの上にある出窓に飾られた、丸いサボテンだった。

 サボテン爺さんはそれを手にとって葉羽の前に差し出すが、不思議そうに眉根を寄せていた。
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