青い僕らは奇跡を抱きしめる
 自分を守るために、人との距離を持ち保守的になるのは仕方がないことと、肩身の狭い思いをしていたが、家庭でも学校でも規制をかけられているみたいで、あちこちで鬱憤が溜まるようになってきた。


 それで自分も苛付くところがあったと思う。


 派手な生徒と目が会った時、俺は普段の無表情から一脱して、気の強い目つきをして睨むようになってしまった。


 それが挑発とでも思われたのか、ある日の放課後、学校の校舎の裏に来いとそいつとその仲間達に呼び出され、俺はサンドバッグのように殴られた。

 俺もそれなりに応戦しようとしたが、数で負け、無勢に多勢に手足を押さえられてしまえば攻撃しようがなかった。

 そいつらは殴り方を心得ていた。

 人から見える部分は一切傷つけない。

 腹ばかりを殴られて、俺は気持ち悪くなってその場で嘔吐してしまった。


「うわ、きたねぇ、こいつゲロまみれ」


「くっさー」


 最後に背中をけられて俺は自分の吐いた上に倒れこみ、制服は本当にゲロまみれとなってしまった。

 馬鹿にするような笑いを残し、最後は唾を吐いて、奴らは去っていった。

 この時の屈辱感は相当なものだった。


 派手なグループに所属している生徒達は、俺と違って両親も揃っているし、お金にも苦労していない。

 派手なだけあって、女の子たちの間でも目立ち、それなりに楽しい中学生活を送っているだろうに、どうして気に入らないというだけで人を傷つけるのだろう。


 俺は自由な金もないし、不満だらけの苦しい生活だけど、人を傷つけることなんて考えたこともないし、ただひっそりと中学生活を送ってるだけなのに、なぜ追い討ちをかけるようにこんな目に遭わないといけないんだ。


 ただ無念で悔しくて、心の中の唯一守っていた小さな誇りが、粉々に音を立てて砕けていく辛さに打ちひしがれた。


 屈辱で持っていきようのない気持ちに声を上げ、狂ったように地面の砂に向かって爪を立てて引っ掻く。

 その光景が異様に思った誰かが後ろを通りかかったのだろう。


 俺を心配するかのごとく、名前を呼ばれたように聞こえた。


 でも俺は今の姿を見られるのが怖くて、クラスで言いふらされて、また笑いものにされるのがいやで、芹藤悠斗じゃないフリを情けなくもしてしまう。


 顔を上げずに立ち上がって、そのまま走り去った。

 こんな事をしても無駄だとわかっていたけど、逃げることしかできなかった。

 誰に心配されたところで、何の気休めにもならなかった。



 そして俺は次の日、学校を休んでしまった。
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