青い僕らは奇跡を抱きしめる
 だから、あの時、車が激しく行き交う道路で、本能のままに思わず飛び込んでしまった。

 そこにはヤケクソと、どうにかしたい小さな希望、ただ衝動的に体が動いた無謀な行動。


 全てが最悪に結び付いた結果だった。

 そして案の定、車に轢かれてしまった。

 轢いた人も、まさか僕が飛び込んでくるなんて思わなかっただろうから、迷惑で怒っているかもしれない。

 この場合、轢いた人にもなんらかのペナルティがあるのだろうか。

 そうだったら、申し訳ない。

 そんな事を考えられるほどに、轢かれて転がって行く時間がゆっくりで、不思議と周りがスローモーションとなって、ぐるぐると色んな物が回って、見えていた。


 これもなるべく時になってしまったのか、運命だったのか、もし自分がこの世から消えたら、アイツらはなんて思うのだろう。


 虐めた奴らへの、精一杯の当てつけ。


 でも遺書がなければ、虐めがあったとは学校は認めないだろう。

 せめてそういうのをどこかに残しておくべきだった。

 何月何日、アイツが僕の事をこうやって虐めた。
 何月何日、アイツが僕をこうやって貶めて、僕は皆から嫌われ虐められるようになった。
 何月何日、アイツとアイツも、便乗して僕を虐めるようになった。

 なんて詳しく教科書やノートのどこかに記録でもつけておくべきだった。


 こんな時のために。


 今更遅いけど、この時点ではどうにもならなかった。
 


 どこからともなく、何かの意思が感覚として体に入り込んでくる。

 良く言われる神の光に包まれるという感じ。


 今自分はどこにいるのだろう。

 いっそうの事、このまま、目を覚まさずに消えてもいいかもしれない。


 こんな自分、いない方がいいのかもしれない。

 やっぱり今もやけくそになっている。


 でも心では悔しくて寂しくて泣いていた。


 こういう時に都合よく、父と母の事を考えてしまう。

 きっと僕がいなくなったら、一番悲しむことだろう。

 これでもやっぱりあの人達の一人息子だから。
 

 ゆらゆらと彷徨い、なんとなく、噂で聞いた三途の河を渡っているような気分だ。


 自分が自分でなくなるような、生と死のあわいに身を置いて宙ぶらりんの訳のわからない真っ白になった状態。

 こういう時、人は一生分の思い出を走馬灯のように再生すると良く言われる。


 一生分?


 それは、一生分と表すにはあまりにも短すぎる年月だった。

 何かが側で弱々しくないている。

 その声を聞きながら、脳裏に映像が浮かび上がり、徐々にはっきりと見えてきた。



 それはとても奇妙な、意味なんてまったくない馬鹿げた映像だった。

 だけど、僕もまた自分と言う入れ物から離れて、誰だかわからなくなってきていた。
 
< 4 / 106 >

この作品をシェア

pagetop