青い僕らは奇跡を抱きしめる
「貧血はもう大丈夫なのか」


「うん。大丈夫。一週間に一度、病院で点滴打たないといけないけど、薬が体に合ったみたいで今は立ちくらみもなく楽になった」


「鉄分不足だったんだろ? しっかりと鉄分取れよ」


「そうだね、しっかりほうれん草とらなくっちゃ」


「まるでポパイだな」


 葉羽は俺の言葉に笑っていた。


「そういえば、兜が言ってたぞ。『お姉ちゃんはMです』って」

「M? 何それ?」


「だからマゾですって意味だよ」


「やだ、兜がそんなこといってたの? もう、マゾなんて言葉、どこで覚えてくるんだろう」


「兜は誰かが言ってたのを聞いたみたいだったけど、葉羽のことだから、多少しんどくなっても我慢してたんだろ。それがマゾってことなんだよ。痛めつけられることに快感を覚える」


「やだ、そんなの。そんなこと言いふらしてたなんて、後で兜におしおきしなくっちゃ」


 葉羽はこの時笑っていた。

 俺もいい調子だと思っていた。


 ところが、暫くして葉羽が俺と口を聞かなくなったのには驚いた。

 夕食を共にして花火を一緒にしたところまではよかったけど、葉羽はその後、塞ぎこむように家から出てこない日が続いた。


 またすれ違いだした。


 出会わないことで、俺を避けているようにも感じられて、俺はまた気がつかないところで何か気に障る事でも言ってしまったのかと、あれやこれやと悶悶としてしまう。


 それでも自分から積極的に行動を起こせず、外から葉羽の家を見るだけで精一杯だった。


 この夏休み、昔を思い出して一緒に遊ぼうと身構えていた俺の気持ちは宙ぶらりんとなり、それが不完全燃焼のまま、夏はあっさり過ぎ去っていった。
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