青い僕らは奇跡を抱きしめる
「悠斗です。あの、その、葉羽に会えますか?」

「悠斗君? あっ、ちょっと待ってね」


 その後、ドアが開くと夜の突然の訪問にもかかわらず、いつもの上品な笑顔を添えて母親が出てきた。


「こんな時間にどうしたの? 今ね、葉羽、お風呂に入ってるんだけど、よかったら中で待つ?」

「えっ、お、お風呂?」


 別に一緒にお風呂入ると言われたわけじゃないのに、お風呂という響きになんだか俺の顔が急に熱くなっていた。


「いえ、その結構です」


 慌てている俺が可愛いと思ったのか、葉羽の母親はくすっと笑っていた。


「あの、一つ聞きたいんですけど、葉羽はまだサボテンを持ってますか?」


「サボテン? ああ、あの丸いサボテンのこと? あれならインテリアとして葉羽の部屋に飾ってあるけど」

「まだあるんですか?」

「うん、あるわよ。葉羽はとても大切にしていて、まるで生き物のように扱ってるわ。時々話しかけたりなんかして、入院しているときも持ち込んだくらいなのよ。縁起が悪いから根付くものをあまり病院には持って行きたくなかったのに、それでも特別なものだからって言って聞かなくてね。だけどあのサボテンがどうかしたの?」


「それなら、今夜月明かりにそれを浴びせて欲しいって伝えてくれませんか?」

「ええ、いいけど、一体どうしたの?」


「サボテン爺さんが……」


 俺はなぜそんな話をしたのかわからないけど、サボテン爺さんと出会ったときの事とサボテンのエピソードを話していた。


「そうなの。だから葉羽はあのサボテンを大切にしてるのね。葉羽は緑川さんにとても可愛がってもらってたからね。わかったちゃんと伝えとくね」


 葉羽の母親は、月の光に負けないくらいの優しい笑顔を俺に向けてくれた。

 俺はおやすみなさいと挨拶をして、その場を後にした。


 そしてもう一度月を眺めれば、なぜ今夜こんな事をしたのだろうと、自分の思い切った行動が不思議でたまらなくなった。


 満月の夜は狼男に変身するくらい、昔から何らかの影響を与えるといわれている。

 そんな力が自分にも及んだのかもしれなかった。


「まさか狼に変身ってことはないよな」


 俺は思わず自分の体をチェックしていた。
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