青い僕らは奇跡を抱きしめる


 どんどん寒さが増していき、クリスマスが近づく頃、俺は花咲家のクリスマスパーティに誘われた。

 声を掛けて貰えたのは嬉しかったし、できる事なら、花咲家でクリスマスを過ごしたいのが本音だった。


 だが、その時は母親と久し振りに過ごす事が決まっていたので、本来の自分のあの街に帰ることになっていた。

 母親は奮発してホテルの有名レストランの予約を取り、豪勢にディナーを食べようと楽しみにしていてくれていた。


 血の繋がりのある姉の家に、何不自由なく、寧ろそれ以上の待遇で息子を預けられて心配することもないけども、どこかで本当の母親としての役目が果たせずに、俺を放っていた罪悪感があったと思う。


 だから俺は花咲家のクリスマスの誘いに魅了されながらも、母親との二人で過ごすディナーを優先した。


 クリスマスに母親とホテルのレストランでディナーというのもなんだか恥ずかしかったが、これも親孝行なのかもと割り切っていた。


 久し振りにあの狭いアパートに戻れば、母親の暮らしの方がなんだか寂しげで、逆に俺の方が罪悪感を感じてしまった。


 中学を卒業して俺が高校に入るときは、またここに戻ってくるけど、その時は俺も母親を支えて行こうなんて、そんな照れくさい話を考えては一人でそれに酔っていた。


 伯母の家に預けられて、そこで新しい中学校に通い、精神も安定して、この時過去に起こった虐めの問題やその時感じた屈辱はすっかり薄れていた。


 もちろん伯父、伯母の協力の賜物でもあるけど、それ以上に葉羽が身近にいて、俺を支えてくれたお陰でもある。

 葉羽に癒されて、俺は救われたと言ってもいいだろう。

 葉羽とは最初すれちがったけど、満月のパワーを貰ってからは手品を通じて親密になっていった。


 捻くれやの俺が葉羽と一緒に行動を共にできたのも、絶えず葉羽が俺に気遣ってくれたからだと思う。

 素直になれない俺の事をよく理解しているように、いつも葉羽が俺を構ってくれた。


 俺が手品の練習を投げ出しそうになっても、葉羽はしつこく追いかけては俺をどこかで繋ぎとめようとしてくる。


 俺がそれに折れて、また練習を続けるのだが、それが嫌じゃないから俺も相当の”かまってちゃん”なのかもしれない。


 まだこれが好きとか恋とかそういうものじゃなかったけど、葉羽と一緒にいるのはとても楽しくなっていた頃だった。


 その事を母に報告するかしないか悩んでいた息が白くなる寒い夜、俺と母は予約しているレストランに向かっていた。


 母がいかにもいいホテルでしょと言わんばかりの笑顔で「ここよ」と嬉しそうに俺に知らせると、それは見上げるほどの高さのある外資系の名の知れた高級ホテルだった。
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