青い僕らは奇跡を抱きしめる
「あのね、悠斗……」


 やっと母が話しかけたとき、もう何もかも俺にはわかっていた。


「別に何も説明することないよ。二人は付き合ってるんだろ。俺に遠慮することなんてないよ。俺、別に反対しないよ」


 すらすら言葉が出てきたが、果たしてそれが俺の本心なのかと言われたら、嘘になったかもしれない。

 上手く処理できない、もやもやした感情が取り巻いて、俺自身どうしていいのかわからなかった。

 だけど、俺が嫌だと言ったところで、負の感情に焚きつけられるように、この二人の恋は障害に益々燃えがる予想がつく。

 そして結局は俺の意見に関係なく二人の間柄が続いていくのなら、ここで賛成しておく方が得策だった。

 その分、俺の明るくなりかけていた心はまたトーンダウンしていたけど。


 母は安心したのか、その後は目の前の相手の事を俺に嬉しそうに紹介してきた。


 西鶴信也、45歳。

 母の働いている会社の社長だった。


 社長といっても、従業員が5名にも満たない、小さなもので、母の一生懸命働く姿に惚れたということだった。

 俺の目から見れば、少し小太りで決してハンサムとはいえないが、真面目さが伝わってくる普通のおじさんだった。


 自分の父よりかは人格がしっかりしてそうで、それだけでも合格を与えられる。

 西鶴は初婚らしいが、離婚暦のあるしかも俺というコブつきでも一向に構わないらしい。


 よほど女性経験が少ないのか、それとも何か性格に欠陥があって今まで結婚できなかったのか、その辺は見極められなかったが、なにせ社長という肩書きはうちの母親にとったらいい条件だったに違いない。


 この先の生活の事を考えてこういう結論になったのかもしれない。

 ほんとうにこの人と結婚したいのかと俺は母に視線を向けたが、そんな意図で見つめている瞳とも知らず、母は反射的に笑みを俺に返していた。


 まあ、いっか。


 とりあえずは、あの狭いアパートから解放されて、そして多少のお金も入ってくると思えば、最終的には俺はこれでいいと妥協できた。


 だからあたり触らず、その日は無難に過ごした。


 だが何を食べたのか、味はどうだったのか全く思い出せず、食事すらしてないように空腹に良く似た虚しさが胃に漂ってる気分だった。
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