青い僕らは奇跡を抱きしめる
「葉羽はいいよな。優しい両親が揃って、弟も物分りよくって、最高の家族だよな。そして住む家も大きくて金持ちで、本当にお嬢様だもんな」


「そんなことないよ……」


 消えいるような声で、葉羽は精一杯否定する。


「この先も何も心配することなく、ここでヌクヌクの生活じゃないか。俺は虐めにあって学校をやむなく変えなければならなかったし、今は伯母に世話になってても、中学卒業したらここから出て貧乏な暮らしが待ってるし、さらに親は離婚してるし、嫌な事ばかり振りかかって、苦労の連続だ。人生って不公平だよな」


「どうしてそんなこと言うの? 皆それぞれ必死に生きてるじゃない。そんなの人それぞれで、比べる方がおかしいよ」


「だから恵まれてるからそう言えるのさ。俺みたいに不幸を味わってみろよ。絶対そんなこと軽々しく言えないぜ」


「ううん、私はそうは思わない。私だってそれなりに悩みはあるし、生きていたら皆何かしら悩む事があって、そしてそれを一生懸命克服しようとするんだよ。 それが人生なんじゃないの。どんな環境であれ、後悔のないように一生懸命生きることは皆に同じように与えられてると思う。自分でどう捉えるかで幸せになれると思う」


「やっぱり葉羽は何も分かってないから言えるんだ。俺はもうなんだか疲れてきた。手品もやめる。いっそのこと学校も辞めてもう働いた方がいいかもしれない。そしたら母親や伯母にも迷惑かけないですむだろうし」


「それはできないよ。中学はまだ義務教育だよ。それに悠斗君は高校に行って大学にいくんだから」

「なんでそう決め付けるんだよ」

「だって悠斗君は将来先生になるんでしょ」

「えっ? 俺そんなこと葉羽に言ったことない」

「でも、悠斗君は将来先生になるよ」

「だからなんでそう決め付けて話すんだよ。押し付けられるのはもういやなんだ。俺にはこれ以上構わないでくれ」


 俺は立ち上がって部屋から出て行こうとすると、葉羽は咄嗟に背中から俺を抱きしめた。


「悠斗君、待って。話を聞いて」

「おい、離せよ、いきなり抱きつくなんて気持ち悪いんだよ」


 俺は体を大きく左右に振って手をバタつかせ、ヤケクソに葉羽を振り払った。

 葉羽はどうにもできないと諦めて俺から離れると、俺は尽かさずドアを開けて階段を駆け下りた。

 葉羽の家から飛び出したとき、追いかけてくるかとつい立ち止まってしまい、その時、俺は葉羽が抱きついたとき嫌じゃなかったことにはっとした。


 それが俺の慰めて欲しい願望であり、構って欲しい俺の気持ちの裏返しだったと気がついた時はもう遅かった。


 葉羽に八つ当たってしまった事が悔やまれる。

 でもまた意地っ張りの性格が顔を出し、俺はとぼとぼと目の前の伯母の家に戻って行った。


 また同じことの繰り返し。


 精神と体のバランスが悪くて感情で行動してしまうのは、俺が思春期だからなのか、それとも俺の父親の遺伝からきているのだろうか。


 後者だとすればもう救いようがなかった。
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