青い僕らは奇跡を抱きしめる
 その日、俺は学校に行っても心そこにあらず、落ち着かないでいた。

 周りにMDSの事を聞いてみても、誰も知らず何も情報は得られなかった。


 前年の夏、葉羽の家で焼肉を食べて、そして花火をしたあの夜、俺は兜が言っていた話をマゾの意味として笑い話のように本人に伝えた。


 その後、塞ぎこんで俺によそよしくなったのは、葉羽も気になって俺のように調べて、その言葉の本当の意味に気がついたからなのかもしれない。


 暫くはショックが強くて、自分で処理できずにいたのだろう。


 MDSは癌と同じように助からないイメージがあるだけに、余命を宣告されたと同じで、相当の衝撃があったに違いない。


 両親は病名を隠して、貧血とごまかしていたが、それが嘘だとわかったとき、時折違和感を抱いたに違いない両親のおかしな態度が、その時腑に落ちたと思う。


 俺もあの両親を見ていたら、なんていい親なんだろうとは思っていたが、よく考えたら完璧すぎるほどいい親過ぎた。

 変な言い方だけど、自分の娘の病状を気にして、気丈になりすぎて無理していたんだと思う。
 
 本当は娘を失ってしまうかもしれない恐怖と闘いながら、必死に耐えて、良い親になり過ぎていた。

 普通の家庭なら、俺と母のように本音を言い合ったりして、必ず衝突があるはずだ。

 葉羽は元々優しい子だから我がままいう事もないだろうけど、両親はそんな我が子を必死で守ろうとして、神経を高ぶらせていた。

 だから救急車で運ばれたあの夜、ショックが強くて過度にやつれていた。

 毎週病院に通い、症状を抑える薬を投与し続け、学校の送り迎えも、できるだけ葉羽の体の負担にならないように配慮していた。

 俺がお嬢様扱いされてると思っていたのは、両親の心配と苦労であって、葉羽は普通の体じゃなかったからだった。

 毎日、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えて、あの家族は必死に暮らしていた。

 俺が八つ当たったあの時、葉羽は人生について語っていた言葉がとても重く感じる。

 葉羽は悩んだ末に自分の病気を受け入れたのだろう。


 その上で、全てを自分に取り込んで、俺にあのように言い切った。



『どんな環境であれ、後悔のないように一生懸命生きることは皆に同じように与えられてると思う。自分でどう捉えるかで幸せになれると思う』



 それなのに俺は、何もわかってないと、ただ怒りをぶつけるだけだった。

 葉羽の方が俺よりもずっと辛い立場にいた。

 病気に蝕まれた弱い体で、しっかりと受け止めて、俺の前では笑顔まで見せていた。


 どこからあんな強い力が出てくるのだろう。

 俺なんて、すぐに愚痴って卑屈になって、感情をやけくそにさらけだしてしまうというのに。
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