青い僕らは奇跡を抱きしめる
 この後、三つ目の奇跡が起こるのだが、俺はまた中学生の頃の葉羽に会う事ができた。

 その時は俺の方から葉羽に会いにいった形になった。


 その日の終わりの会を終えて、生徒とさようならの挨拶をして、教室を出た直後だった。

 ドアを開けて廊下に出たはずなのに、そこは薄暗い部屋の中へと続いていた。

 目の前にはベッドがあり、点滴を打たれながら誰かがそこで寝ていた。


 その時、窓際にサボテンの鉢植えがあることに気がついた。

 そのサボテンはピンクの花を咲かして、月の光に照らされ、ぼやっと光っていたように見えた。


 その姿は優しく、まるで微笑んでいるようだった。


 今まさに奇跡が起こっているのを実感し、震える足取りでベッドに近寄ると、そこには青ざめた中学生の葉羽が寝ていた。


「葉羽!」


 俺が思わず声を出すと、葉羽は目を開けた。


「悠斗…… くん?」

「ああ、そうだ。俺だ」


「もしかして、ここにサボテンある?」

「うん、あるよ。花も咲いてる」


 葉羽はニコッと微笑んだ。


「大人の悠斗君にまた会えたね。嬉しい。あれから教師の仕事は頑張ってる?」

「もちろんさ。一生懸命頑張ってるよ」


「悠斗君。今までありがとう」

「バカ野郎、そんな風に言うなよ」


「悠斗君と会えたから、私はやるべき事を見つけられて、とても充実した日々を送れた。悠斗君のお陰」


 俺はなんだか目が潤んできた。


「悠斗君、覚えてる? 師匠の家でサボテンを貰った帰りのこと。あの時、サボテンの花が突然咲いてね、気がついたら私、中学生の悠斗君を見ていたの。私の目の前で悠斗君、数人の男の子達に殴られていたの」


 俺ははっとした。


「あの時が一回目の奇跡?」

「そう。あれが何だったのかわかんなかったんだけど、悠斗君、とても苦しそうにしていた。だけどあの時、私は助けてあげられなかった。ずっとその事が頭から離れなかった」


 俺は思い出した。

 あの時、後ろを歩いていたと思った葉羽は突然前を歩いていた。


 あれが意味するのは、葉羽は俺の未来を見て、戻ってきたところだったに違いない。


 あの後の葉羽の態度は変だと思ったし、別れ際に『頑張って』と言ってきたのは、これから起こる俺の未来を危惧していたということだった。


「そっか、あの時も俺のこと見てたのか」

「だから二回目の奇跡が起こったとき、私がすべきことは悠斗君を助けることなんだって思ったんだ。あの時自分の命が短いって知ったけど、悠斗君が側に居たから持ちこたえられたんだ」


「葉羽……」

「悠斗君、もう三回の花が咲いちゃったから奇跡は起こらないけど、あのサボテン、私の変わりに悠斗君が持っていて」


「何、辛気臭いこといってんだよ」

「悠斗君はこの先の私の未来のこと、もう知ってるんでしょ」


 俺は首を縦に振った。
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