青い僕らは奇跡を抱きしめる
「だったら、尚更、そのサボテンのこと私だと思って可愛がって欲しい」

「葉羽、もうこのサボテンには頼るな。このサボテンが奇跡を起こしたって思ってるのか? だったら間違いだ。全ての奇跡は葉羽が起こしてるんだよ」


 葉羽は、慰めなど要らないと力なく笑っていた。

 この時の表情は死を受け入れているように思えた。


 俺は窓際に近寄り、サボテンの鉢植えを抱え、それを持って葉羽に近寄った。

 葉羽の消え行きそうな儚い命は青白い光を出しているように見え、葉羽が美しい妖精のようにみえた。

 大人になってから、また再び中学生の葉羽に会えたことはとても嬉しかった。

 この頃、中学生の俺は葉羽の病気のことを知って、絶望に打ちひしがれて悲しみのどん底にいた。

 病室で寝ている辛そうな葉羽の姿をみていると、あの時の感情が蘇ってくる。


「葉羽、もう一度奇跡を起こそう」

「ダメだよ。サボテンは三回しか花を咲かせない。これがその最後の三回目」


「大丈夫、もう一回、葉羽なら起こせる」

「悠斗君も知ってるでしょ、この病気がどんなものか。そしてこの先どういう事が起こるか」


 俺はこの先の話など本人の前でできなかった。

 でも一つだけ伝えようと、俺は葉羽に顔を近づけて、そっとキスをした。

 大人になった俺が中学生にキスをするのは少し頂けなかったかもしれない。


 でも俺の心はこの時、中学生のあの頃のままだった。

 葉羽の青白い頬がほんのりとピンクに染まったように見えた。


 お互い暫く見詰め合っていたけど、次第にフェードアウトして気がつけば、俺はサボテンを抱えたまま、教室の後ろに立っていた。


 まるで夢を見ていたようだった。

 だが腕にはしっかりとサボテンの鉢を抱えていた。
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